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入社1年目が教わる「はじめての人工知能」 第3回:トップ企業にみる人工知能(AI)活用の取り組み

公開日
2020.10.30
更新日
2024.03.07

※本記事は、ブレインパッドが運営する人工知能ブログ「+AI」に掲載されている記事の転載版になります。

現在、人工知能(AI)は人びとの生活や産業に革新をもたらす技術として世界中で注目されています。本ブログではこれからビジネスにAIを活用する方に向けて、ブレインパッドの入社1年目が先輩社員から学んだAIの“基礎”を連載形式でお届けします。第3回目は「トップ企業にみる人工知能(AI)活用の取り組み」をわかりやすく解説します。

連載第2回「人工知能(AI)」の歴史」では、今日のAIの興隆は「実社会にすでに数多く実装されている」という点で、過去のブームとは異なるということを紹介しました。また、過去の人工知能ブームを経験している人工知能技術戦略会議議長の安西祐一郎氏は、その違いの1つに「米国ビッグインダストリーが存在すること、また彼らの戦略の一環の面が強いこと」を挙げています。

そこで第3回目の今回は、AI先進国のアメリカや中国などの事例を交えながら、AIを活用した先端的な取り組みについて学んでいきます。

AIを戦略の中心に据えるトップ企業たち

世界の企業時価総額ランキングをみてみると、テクノロジー業界が上位を占めています。そのTOP5には、Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft(通称「GAFAM」)が君臨しています。

2018年6月末時点での世界の企業時価総額ランキング
2018年6月末時点での世界の企業時価総額ランキング(YCharts.comをもとに筆者作成)

これらの企業に共通しているのは、AIやそれを支える機械学習を戦略の中心に据えて事業を展開している点です。各社CEOの発言をみても、AIや機械学習にいかに積極的に取り組んでいるかがうかがえます。

GAFAM各社のCEOの発言(韮原祐介「いちばんやさしい機械学習プロジェクトの教本」)
GAFAM各社のCEOの発言(韮原祐介「いちばんやさしい機械学習プロジェクトの教本」)

時価総額とは単に収益力だけではなく、市場からその企業への期待度を表しています。たとえば2017年4月、米電気自動車メーカーTeslaがGM(ゼネラル・モーターズ)の時価総額を抜き、全米首位の自動車メーカーとなりました。

Teslaの売上高はGMの1/40にもかかわらず、こうした事態が起こりました。すなわち今日において、時価総額は未来を切り開くポテンシャルの高さによって決まると言えます。

こうした未来を切り開く力は、研究開発費からもみてとれます。GAFAMは5社合計で、2017年12月までの1年間で718億ドル(約8.1兆円:2017年12月29日当時のレート1ドル112.69円換算)もの研究開発費を計上しています。これは、日本企業の上位30位までの研究開発費の合計に匹敵する莫大な金額です。

GAFAMと日本トップ30社の研究開発費
GAFAMと日本トップ30社の研究開発費(YCharts.com、東洋経済オンライン2017年4月7日が報じたデータをもとに筆者作成)

トップ企業は莫大な研究開発費を一体何に使っているのか

Googleは検索技術や迷惑メールの仕分け、メール文の自動生成、翻訳、画像認識など、機械学習を用いた機能を様々なサービスに組み込んでいます。AmazonやFacebook、Apple、Microsoftも同様に、ユーザー理解や需要予測、コンテンツ最適化、レコメンデーション、業務の自動化など、機械学習を用いて数々のサービスを展開しています。

ここでは、そんな現代を代表するトップ企業が巨額の研究開発費を投じて進める、AI活用事例の一部を眺めていきます。

①太陽系外惑星の探査

太陽系外惑星の探査(Google AI Blog)

Googleは太陽系外の恒星の周りに存在する惑星を発見するために機械学習を用いています。NASAの宇宙望遠鏡「Kepler」で取得した140億ものデータから、惑星が恒星の前を通る時に輝度が落ち込むパターンを学習し、太陽系外惑星の検出を試みています。

2017年12月には、Kepler90恒星系で8番目の惑星「Kepler90-i」が発見されました。今回の発見に至ったGoogleのChristopher Shallue氏とNASAのAndrew Vanderburg氏は、今後、150,000以上の恒星を含むKeplerの全データに調査対象を拡大する計画とのことで、新たな太陽系外惑星の発見が期待されます。

②がんの診断

ARMで生成した画像の例(Google AI Blog)

Googleは医療へのAI活用にも力を注いでいます。今年5月のGoogleの開発者向けカンファレンス「Google I/O 2018」では、スンダー・ピチャイCEOが「AIが革新をもたらす最も重要な領域」として真っ先に紹介したのが医療でした。

その一つが、がん検出を支援する拡張現実(AR)顕微鏡プラットフォーム「Augmented Reality Microscope(ARM)」です。通常は専門家でなければ顕微鏡を覗いてもがん細胞を見つけることは困難ですが、このARMはがん細胞の位置を発見し、観察者に線で囲んで教えてくれます。

Googleはその他、網膜の画像から年齢や血圧、肥満度などを把握し、心血管系疾患のリスクを予測出来る機械学習モデルも構築しています。

左:網膜画像、右:高血圧の予測に重要と判定された部分(Google AI Blog)

③ピアノデュエット

A.I. Experiments: A.I. Duet / YouTube

2016年、Googleは芸術領域に特化したAIを開発するオープンソースプロジェクト「Magenta」を立ち上げました。そこで誕生したプロジェクトの一つが「A.I. Duet」です。

ユーザーが鍵盤で奏でたメロディーに対して、コンピュータがメロディーを返しデュエット演奏をしてくれます。スマホやタブレットから開くと、鍵盤にタッチして演奏できるので、ぜひ実際に体験してみてください。

一見すると、コンピュータに知性が宿ったようにも思えます。しかし、音楽とは波形データの連なりにすぎません。すなわち、これは「音のデータの連なりから次に最適な音を予測し、生成している」に過ぎないのです。

この他にも、絵を描くプロジェクトや作曲するプロジェクトなど、芸術分野でも機械学習を用いた取り組みが加速しています。

④ドローンでの配達

Amazon Prime Air’s First Customer Delivery / YouTube

2016年、Amazonは自動飛行ドローンが商品を配達する「Prime Air」の公開実験を成功させました。障害物や歩行者を検知して衝突を回避するだけでなく、飛行先で発生するノイズを予測してドローンの飛行音を低減する技術などにも機械学習が用いられています。

⑤Amazon GO

Introducing Amazon Go and the world’s most advanced shopping technology / YouTube

レジがなくスマホ一つで買い物ができる「Amazon  GO」。一般公開された今年1月にはテレビでも大きく取り上げられ、ご存知の方も多いかと思います。

実はこの「Amazon GO」にも機械学習が活用されています。複数のセンサーで得られた情報をもとに、機械学習とコンピュータビジョンを用いて客が手にとった商品を正しく認識しています。

ちなみに、コンピュータビジョンとは「コンピュータによる視覚を実現する技術」です。人間の視覚処理をコンピュータで実現するのみならず、時には人間以上の処理を実現します。この技術は機械学習だけでなく、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)にも欠かせないもので、近年注目されている研究分野です。

⑥物体検知

FAIRで取り組んでいる物体検知(Facebook AI Research「Detectron」)

Facebookでは、自社で運営するSNS上のコンテンツをすべて理解することを目標に、機械学習を用いています。具体的にはニュースフィードや検索、広告において、1日あたり合計200兆件以上の予測、50億件以上の翻訳を機械学習で処理しているそうです。

その一つに、Facebook AI Research(FAIR)が取り組むリアルタイムの物体検知アルゴリズム「Detectron」があります。Facebookは、世界のコンピュータビジョン研究の加速のため、これをオープンソースで公開しています。

また今年6月には、動画から人間の姿勢を特定し、3Dモデルの人体の表面にテクスチャをマッピングするシステム「DensePose」をオープンソースで公開しています。

DensePose: Dense Human Pose Estimation In The Wild (CVPR 2018 Oral) / YouTube

GAFAMだけにとどまらない世界のAI活用事例

ここまで世界の時価総額ランキングTOP5であるGAFAMのAI活用についてみてきました。しかし、世界にはAIを駆使して事業を展開する企業は数多くあります。ここからは、GAFAM以外にAIを活用している先端企業の取り組みについて眺めていきます。

①完全自動運転にむけたAI活用最前線

現在、完全自動運転の実現にむけて世界中の企業が凌ぎを削っています。

たとえば、Googleと同じAlphabetのグループ企業Waymoの取り組みは有名です。

GMの時価総額を抜き全米首位の自動車メーカーとなったTeslaもその一つです。「autopilot」と呼ばれるドライバーアシスタント機能は、8台のカメラや超音波センサーなど用いて周囲の状況を把握し、半自動運転を実現しています。動画では通行車両や通行人、標識などを認識しながら走行する様子が映し出されています。

Teslaの自動運転の様子(Tesla Webサイト)

②AI先進国中国 驚きのAI活用

また中国は、近年AI活用が急速に進みつつあります。中国三大IT企業のBaidu、Alibaba、Tencent(通称「BAT」)は、年々成長の勢いを増し、存在感が高まってきています。時価総額ランキングをみても、上位10社のうち2社が中国企業となっています。では、そんな中国企業の凄さが分かるAI活用事例をみていきます。

ウェイトレスの無人化を実現するAlibabaのスマートレストラン「五芳斋(ウーファンジャイ)インテリジェントレストラン」。レストランの入口でQRコードと顔認証技術で個人を特定し、Alibabaの決済サービス「Alipay」と紐づけされます。座席につくとスマートテーブルでメニューを選択でき、支払いも「Alipay」で自動決済がされる仕組みになっています。

Alibabaのテクノロジーの祭典「雲栖大会」で発表されたこのコンセプトは、大きな注目を集め、ついに今年1月スマートレストランの第一号店がオープンしました。動画に出てくるようなスマートテーブルなどはまだ導入されていませんが、今後拡大が予想されます。

アメリカのトップ企業にも引けを取らないこのサービスから、中国のAI活用の発展がうかがえます。

alibaba smart restaurant / YouTube

日本でも加速する事業へのAI活用事例

アメリカや中国だけでなく、日本国内でもAI活用は加速しています。

ブレインパッドも、事業へのAI活用を支援する日本における先進的な企業の一つです。AI・機械学習・ディープラーニング・ビッグデータ活用などが重視される以前から、お客様が持つデータが秘めている力を事業成長の力へと昇華させる支援を行ってきました。

これまでに支援させて頂いたお客様は800社を超え、業界やテーマを問わずビジネスパートナーとしての信頼を得てきました。

ここでは、その事例をいくつかご紹介します。

①バレーボールの戦況の予測

2016年のリオオリンピックに向けた、全日本女子バレーボールチームへのスポーツアナリティクス支援を行いました。機械学習を活用してリアルタイムにセッターの配給を予測し、試合の戦術に活かすという、当時世界で類を見ないチャレンジをご一緒させていただきました。

さらに詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。

アナリスト席から見るバレーボール会場
アナリスト席から見るバレーボール会場

②キユーピーの食品工場での不良品検知

これまで1日100万個以上流れるダイス型のポテトを1つ1つ、人の目で見分け、異物混入や不良品がないか確認していました。人々の安心を支えるために行われた業務でしたが、目視の原料検査は作業負荷が高く、課題となっていました。

そこで、食品製造ラインに流れる食品を撮影した動画から、ディープラーニングを用いて良品・不良品を判別できるアルゴリズムを開発しました。

さらに詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。

食品原料の良品・不良品判定
食品原料の良品・不良品判定

③機械学習を駆使したプライベートDMPでOne to One マーケティングを実現

ブレインパッドが提供するレコメンドエンジン搭載プライベートDMP「Rtoaster」。レコメンドエンジン・ユーザー分析には、弊社が独自に開発した最先端の機械学習アルゴリズムを用いています。それにより、常に変化するデータに合わせて、ユーザー一人ひとりに最適なコンテンツ(バナー、商品など)のレコメンドを実現しています。

レコメンドエンジン搭載プライベートDMP「Rtoaster」
レコメンドエンジン搭載プライベートDMP「Rtoaster」


ここでご紹介した事例は、ブレインパッドが支援してきた取り組みのほんの一部です。様々な取り組みをご覧になりたい方は、ぜひ導入事例・実績をご覧ください。

トップ企業の取り組みにみるAIの事業への活用可能性

ここまで、AIが社会に実装されている様子をみてきました。時価総額ランキング上位の企業のみならず、中国や日本でも様々な企業がAIを活用し、すでに事業を変革し始めていることが分かります。

さて、こうしたトップ企業の取り組みから、世間で騒がれているAIの輪郭が見えてきます。AIとは、大量のデータを入力し、高度な情報処理を行い、識別・予測・実行/生成を行う機械のことです。

高度な情報処理は、大量のデータを扱うことを可能にした高性能の計算機を生み出したコンピュータサイエンス(計算機科学)と、機械学習アルゴリズムなどのデータサイエンス(情報科学)の発展のもとに成り立っています。

この本質を理解することで、AIに何ができて、何ができないかを把握し、AIをどのように事業に活かせるのかが見えてくるはずです。

情報処理フロー

***

連載第3回目となる今回は、「トップ企業にみる人工知能(AI)活用の取り組み」についてみてきました。次回は「人工知能(AI)をめぐる国の政策動向」について学んでいきます。

今回の要点

  • 今日のAIの興隆は「実社会にすでに数多く実装されている」という点で過去のブームとは異なる
  • 時価総額ランキングトップ企業は、AIやそれを支える機械学習を戦略の中心に据えて事業を展開している
  • GAFAMは日本企業の上位25位までの合計に匹敵する莫大な金額を研究開発費として計上し、未来を切り開いている
  • GAFAMをはじめ、中国や日本など、様々な企業が機械学習を用いてサービスを展開している
  • AIとは、大量のデータを入力し、高度な情報処理を行い、識別・予測・実行/生成を行う機械のこと

参考文献

・Andreessen Horowitz Webサイト「AI, Deep Learning, and Machine Learning: A Primer
Facebook AI Research
Experiments with Google
Google AI Blog
・NASA Webサイト「How many exoplanets has Kepler discovered?
・Tesla Webサイト「Tesla Self-Driving Demonstration (Short)
・韮原祐介(2018)「いちばんやさしい機械学習プロジェクトの教本」株式会社インプレス



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